一体なぜ? Oracleのクラウド事業が今になって“爆伸び”この勢いは続くのか

Oracleのクラウドインフラ事業が好調だ。2025年度第2四半期の売り上げ成長率が、AWSやMicrosoft、Googleを上回ったという。成功の要因は何か。今後の課題と併せて紹介する。

2025年05月16日 07時00分 公開
[Tom NolleTechTarget]

 近年、クラウド市場で存在感を急速に高めている企業がある。それがOracleだ。伝統的にはデータベースや業務アプリケーションのベンダーという印象が強い同社だが、2025年度第2四半期(2024年9〜11月)、クラウドインフラ事業の売り上げが大幅に増加し、その成長率はAmazon Web Services(AWS)、Microsoft、Googleといった大手クラウドサービスベンダーを上回った。Oracleの事業全体の売上高は前年同期比9%の伸び率にとどまったが、OracleのCEOを務めるサフラ・キャッツ氏によると、同社のクラウドサービス群『Oracle Cloud Infrastructure』(OCI)の売上高は52%という驚異的な増加を記録した。

 Oracleのクラウド事業が急成長する要因は何か。その勢いが今後も続くのかどうかと併せて検証する。

Oracleのクラウド事業が“爆伸び”する3つの要因

 キャッツ氏は、成長の要因として「記録的なAI(人工知能)需要」を挙げた。生成AIのモデルのトレーニングにOCIを活用する企業が増えたのが主な原因だ。同氏は、この成長はまだ初期段階にあると語る。「AI分野でのクラウドインフラ事業の成長は驚異的だが、今後もさらに上昇していくと確信している」と語った。

 「OCIは、他社のクラウドサービスよりも処理速度に優れ、低コストだ。世界的に有名な複数の生成AIモデルのトレーニングに活用されている」。Oracleの会長兼CTO(最高技術責任者)であるラリー・エリソン氏はそう語る。

 まずは今回の成功につながったOracleの強みを見ていこう。

長年培った信頼

 企業戦略における影響力という観点では、20年以上に渡り、OracleはIBMなどと並び存在感を発揮してきた。企業がIT投資における重要な意思決定をする際、選択肢としてOracleの名前が上がることが多く、AI導入に当たっても、Oracleが選ばれる機会が増えたと考えられる。

データベース製品のシェア

 Oracleのデータベース製品は、クラウドサービスでもオンプレミスデータセンターでも、広く普及している。AIモデルのトレーニングには、データベースへのアクセスが欠かせない。Oracleのデータベース製品は、データセキュリティとデータ主権(データの制御や管理に関する権利)という重要な要件を満たす点で、企業の信頼に応えてきた。Oracleのデータベース製品を利用する企業がそのままOCIのユーザーとなるケースが珍しくない。

手頃な価格設定

 OCIは大手クラウドサービスよりも安価で、アクセス料金およびエグレス(外部インフラへのデータ転送)料金を抑えているので、企業はそれを理由にAIトレーニングに向くと考える。「Amazon Web Services」(AWS)、「Microsoft Azure」や「Google Cloud」といったクラウドサービスと比較して、国際的なホスティング密度(同時に処理できる接続の数)が低い、サービスや機能が少ないという弱点はあるが、これらの点はAIトレーニングではあまり重要ではない。自社でホスティングするAIモデルを構築し、学習データだけをOCIに転送してトレーニングができる。オープンソースのAIモデルをOCIで実行することも可能だ。

この勢いは続くのか? 課題は

 OCIの成長がこの先も続くという保証はない。次に課題を挙げていく。

競合との差別化をいつまで維持できるのか

 競争の激化が見込まれる中で、差別化要因の耐久性が問われる。他のクラウドサービスが、AIトレーニングにおいて、OCI以上の処理性能を、同等もしくはより安価な価格で提供してくる可能性がある。競争を勝ち抜くには、生成AI開発における信頼できるパートナーとして、OCIのブランドを確立する必要がある。データベース製品、アプリケーション製品との連携を進め、強力な顧客基盤を拡大しなければならない。

AIモデルのトレーニングが続くのか

 OCIの成功はAIトレーニングに依存している。しかし、企業が独自のAIモデルの構築のために、自社でトレーニングをする流れが今後も続くとは限らない。生成AIに関連する各ベンダーのサービスが充実していけば、AIトレーニング市場が縮小する可能性さえある。実際、新しいモデルや機能が続々と登場する中、モデルの開発にこだわる必要性が少なくなりつつある。環境が急速に変化する中、企業がトレーニングにOCIを活用し続ける保証はない。

Oracleが技術革新を続けるか

 仮に企業がAIモデルのトレーニングに引き続きOCIを使用し続けたとしても、それだけでは成長は維持できない。OracleがAIアプリケーション分野でも業界のリーダーとなることが求められる。

 OracleはSaaS(Software as a Service)型のアプリケーション製品も幅広く展開しているが、冒頭で述べたように、それを含めた全体の売上成長率は9%にとどまる。SaaS事業でAI需要を効果的に取り込めているとは言い難い。OracleはAIを活用した企業向け製品を十分には提供できておらず、この点はライバルのIBMとは対照的だ。Oracleが決算報告の中で今後の成長の要因として挙げたのは、AIモデルのトレーニングだけだ。成長を維持し、大手クラウドサービスの代替手段として認知されるために、今、Oracleは大胆な技術投資をする必要がある。そうでなければ、OCIはAIのトレーニング用として用途が限定されてしまうだろう。

(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)

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