AIエージェント普及の鍵となるGoogleの「A2A」とは? 「MCP」との違いはAIエージェント同士が協力する時代に

複数のAIエージェントが連携してタスクを遂行する時代に向けて、Googleはオープンプロトコル「Agent2Agent」(A2A)を発表した。その技術的な要点と、活用例を解説する。

2025年05月27日 07時00分 公開
[Cliff SaranTechTarget]

 Googleは2025年4月、AIエージェント(AI:人工知能)同士の安全な連携を目的としたオープンプロトコル「Agent2Agent」(A2A)を発表した。2024年11月にはAnthropicがAIエージェントの実用性を高めるためのオープンプロトコル「Model Context Protocol」(MCP)を発表しているが、これとは何が違うのか。A2Aの活用例を基に、その技術的な位置付けと活用の可能性を探る。

Googleの「A2A」がAIエージェント普及の鍵に?

 A2Aは、Googleが社内で培ってきた大規模なエージェントシステムの運用経験を基に設計されている。このプロトコルの目的は、複数のAIエージェントを組み合わせる際に生じるスケーラビリティ(拡張性)や相互運用性の課題に対処することにある。

 A2Aに準拠して開発されたAIエージェントは、同じプロトコルを採用する他のAIエージェントと容易に接続および連携できるようになる。Googleは同社の公式ブログで、「標準化された仕組みにより、異なるシステムやクラウド環境を横断してAIエージェントを統合的に管理できる」と説明している。

 各AIエージェントが自身の機能や特性を「Agent Card」と呼ばれるメタ情報で公開する仕組みがA2Aでは採用されている。Agent Cardは機械可読性(コンピュータがそのまま理解し、処理できる形式)のあるJSON形式で記述され、他のAIエージェントがそれを参照することで、タスクに応じて最適な連携先を特定できる。AIエージェント同士がこのプロトコルを通じて、コンテキスト情報、返信、生成物、ユーザーからの指示を相互に送信してやりとりできる。

採用業務や顧客対応にも活用

 GoogleはA2Aの活用例として、ソフトウェアエンジニア採用プロセスの効率化を挙げている。採用担当者は、求人情報や勤務地、必要なスキルなどの条件を基に、候補者の検索をAIエージェントに指示する。指示を受けたAIエージェントは、他の専門的なAIエージェントと連携して適切な候補者をリストアップし、担当者に提示。担当者が面接の調整を指示すれば、それもAIエージェントが対処する。

 A2Aへの対応を発表したERP(統合業務システム)ベンダーSAPは、A2Aを活用した顧客応対の例を紹介している。顧客からの問い合わせメールがGoogleのメールサービス「Gmail」に届いた際、コンタクトセンターの担当者はツールを切り替えることなく、Gmailの画面から直接SAPのAIエージェント「Joule」を呼び出すことができるという。

 SAPの活用例では、Jouleが「AIエージェントオーケストレーター」として動作し、問い合わせに基づくトラブル解決プロセスを開始する。JouleはGoogleの別のAIエージェントと連携し、該当する取引データが格納されたGoogleのデータウェアハウス(DWH)「BigQuery」に接続する。SAPによると、これらのAIエージェントは問題の検証、インサイト(洞察)の取得、解決策の提示までを自動で実行し、ユーザー側でのシステム切り替え、データ照合、コンテキスト(背景情報)の引き継ぎといった手作業は不要になるという。

 A2Aへの対応を表明している企業には、コンサルティング企業のAccenture、Boston Consulting Group(BCG)、PricewaterhouseCoopers(PwC)、KPMG、Deloitte、McKinsey&Company、Tata Consultancy Services(TCS)、Cognizant Technology Solutions、ITベンダーのHCL Technologies、Infosys、Wipro、調査会社Capgemini Research Instituteなどが名を連ねている。これらの企業がA2Aを採用することで、業務自動化やAI連携のエコシステムがより広範囲に広がることが期待される。

A2Aの技術的意義と将来性

 Googleのクラウド部門「Google Cloud」でAI、機械学習、生成AI担当ディレクターを務めるミク・ジャー氏は次のように説明する。「AIエージェントの進化に伴い、テキスト、音声、動画、画像といった異なる形式のデータをシームレスに扱えることが非常に重要になる」。一方で、こうした多様なデータ形式を横断的に処理することは、AIエージェントの相互運用性にとって大きな課題でもある。

 この課題に対処するため、A2Aのようなオープンプロトコルが不可欠になる。A2Aは、異なるAIエージェントが多様な形式のデータをやりとりし、連携するための基盤を提供する。「マルチモーダル性(異なる形式のデータを扱う性質)は、もはや単なる機能ではなく、AIエージェント連携を支える根幹となる要件だ」。そうジャー氏は話す。

 A2Aへの対応を表明しているソフトウェアベンダーとして、Atlassian、Box、MongoDB、Neo4j、New Relic、Salesforce、ServiceNowなどが挙げられる。MicrosoftのAIアシスタントツール「Copilot」は、2025年5月時点でA2Aに対応していないようだ。

 MicrosoftとGoogleの両社は、MCPを採用している。MCPは、AIエージェントを外部のデータソースに接続し、必要なツールと文脈情報を提供する仕組みだ。A2AとMCPは補完的な関係にあると言える。

 Microsoftは2025年3月、AIエージェント設計ツール「Microsoft Copilot Studio」(以下、Copilot Studio)とMCPの統合を発表した。Copilot Studioのユーザーは既存のナレッジサーバ(知識やノウハウを蓄積したデータベース)やAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)と接続できるようになり、より高度なAIエージェント構築が可能になるという。

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